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2007年 09月 06日
・午前中から、試写で七里圭監督作品『眠り姫』。あっけなく閉店してしまった渋谷ABCにフライヤーが置いてあって気になっていて、その後ちょっとした知人が出演していると聞いて増々観たいと思っていたら、試写状が届いたので行ってみた。内田百聞の短編「山高帽子」を自由に翻案した山本直樹のマンガを原作としつつ、更にヒネリを加え、全編ほぼまったく人物が映らず(完全に無人のシーンも多い)、声だけで物語が進行してゆくという、かなり実験的な趣向。しかし結果としてこの手法は非常に効果を上げていた。プレスリリースには書いてあるが、百聞の短編の挿話は鈴木清順の『ツィゴイネルワイゼン』にも一部導入されている(「サラサーテの盤」が公式には原作とされているが、周知のようにこの脚本には他にも幾つかの百聞の短編からディテールが入れ込まれている)。そのことをすっかり忘れていたので、該当するシーンになってふと気付いて戦慄した。今でいうなら解離とか統合失調症ということになるのだろうが、それはつまり怪談でもあるということだ。いやおうなしに孤独を選ぶしかないひとりの女性の物語でもあるこの映画は不気味で、空恐ろしく、そして哀しい。声のみでヒロインを演じたつぐみがとても良かった。七里圭はこのあと、これもイメージフォーラムフェスで観逃してしまった愛知芸術センターの委嘱による『ホッテントットエプロンースケッチ』、そして何と渡辺淳一原作の『マリッジリング』と、続々と新作の公開が予定されているらしい。これらの新作もぜひ観てみたい。
・ところで、人が出てこない映画に知人が出演てどういうこと?と訝る方もおられましょうが、それはヒミツです。 ・サントリーホールで、ジョン・ケージ作曲、足立智美演出による『ユーロペラ5』。僕はマチネで観たのだが、小ホールとはいえほぼ満員。ユーロペラ=EUROPERAはケージ晩年のオペラ・シリーズで、「5」は最後の作品、いちばんコンパクトな規模のもので、MODEから初演のCDが出ている。足立演出は非常にスクエアな感じで、オリジナルへの忠誠心とオリジナリティへの腐心にやや引き裂かれているような印象があった。もっと笑えたり(ユーモラスに成り得る要素は幾つも設定されている)、もっと強烈にワケがわからなくなっててもよかったのに、と個人的には思った。あと途中何度かリアルタイムのTV画面が流されるのだが、おそらく特定の民放テレビ局だとサントリーの文化事業的にマズかったのか、某国営放送になってたのが些か興醒めだった(まあ民放でもそんな変わらなかったかもしれないけど)。でも全体としてはなかなか楽しめました。この作品をやろうとしたこと自体にそもそも意義があるわけだし。 ・ところで、これは書くか書くまいか悩んだんですが、実はこの「ユーロペラ5」の演出家の選定について、今を去ること一年以上前、サントリーサマーフェスの企画に携わるある方からリコメンドを依頼されて、僕はジム・オルークを推薦しました。ジムに打診してみたところ彼もわりかし乗り気で、一時はほぼ決まりかかっていたのですが、おそらく言語の壁が最終的なネックとなり(ジムは日本語を喋るけどまだそれほど堪能ではなく、出演者とスタッフ皆が英語を完璧に解するとも限らない、ということだと思います)、就任に至りませんでした。その後大分過ぎてから、そのある方と別の機会にお目にかかった際(というかジムの世田美でのコンサートの時だった)、確かクリストフ・シャルルさん経由で何人かの名前が挙がっていると伺いました。そして更に結構な時間が過ぎて、今回の足立智美演出での上演に至ったわけです。折角だから、というか普通に観たいと思っていたのですが、その方からもサントリーからも当然のように招待の連絡などは皆無で、こちらから改めてコンタクトしてようやっと席を確保できた次第です。足立さんもプログラムノートに寄せた文章を読むと相当考え抜いたようで苦労が偲ばれますが、ジム・オルークの「ユーロペラ」もちょっと観てみたかったです。 ・台風がやってきたー僕は雨はキライだが台風はキライじゃないよ。
by ATSAS
| 2007-09-06 23:27
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