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2007年 07月 17日
・金原ひとみインタビューfor「野生時代」。初対面でした。表紙も飾るという次号の特集の中で、これまでに出された全ての小説、つまり『蛇にピアス』『アッシュベイビー』『AMEBIC』『オートフィクション』『ハイドラ』の5冊をご本人の語りで紹介するという記事。すごく面白かった。僕はどんなインタビューでも、相手と話してる最中は基本的に一切資料は見ないし事前に質問リストとかもまったく作らない、つまり何となくダラダラと話してるだけみたいな感じでやるようにしていて、でもその分けっこう予習はしていて(当たり前か)、今回も過去のインタビューを色々と読んでしまったら、もうあんまり今更訊く事ないんじゃないの笑、とか思ってしまってたのだが、でも実際に面と向かってみると、やっぱり次々と知りたいことが出て来て、金原さんもよく喋ってくれて、2時間があっという間だった。金原ひとみこそは、野生の本能で虚実の肝を抉り出し、書かれるべき言葉と運命的に遭遇する、本物の小説家だと思いました。
・そんなわけで、過去に書いた金原評をアプしておきます。 『オートフィクション』書評 ここだけの話(?)、金原ひとみの小説をちゃんと読んだのは、この『オートフィクション』が初めてだ。「蛇にピアス」も斜め読みのままだったし。そこで今回、新作から遡って全部読んでみたのだが、なんだか不思議な感じがした。というのは、今回の小説がまさに、一人称の「私」の過去へと遡行していくという、些か特殊な構成を取っていたからだ。「22winter」すなわち22歳の冬から始まり、18歳夏、16歳夏と逆行してゆき、15歳の冬で終わる。題名はもちろん「自伝=オートバイオグラフィー」に引っ掛けてあって、金原さん自身も執筆時には22歳であったことを思えば、ここではかなりあからさまに虚実のあわいが俎上に上らされているらしく思える。とはいえ読了してみると、作品を通して問われているのは、必ずしもそうしたいわゆる「私小説」的な問題ではないことが分かる。金原さんのこれまでの小説と同様に、作家その人との同一視への誘いは、一種の口実(プレテクスト)なのであって、真の主題は明らかに、誰でもありえる「私」と「世界」との、永遠に解消されない不具合をめぐる闘争の記録なのだ。 22歳の人気女流小説家の「私」が、狂おしく愛していた筈の夫にとつぜん離婚を宣告する最初のパートから、この小説はまるで種明かしをするかのように、ティーンエイジに遡っていく。前作『AMEBIC』を更に上回る、狂躁的とでも呼べるような文体がまず面白い。ひとりノリツッコミ的な感じも笑えるし、泣けるし、恐ろしくさえある。この尋常ではないテンションの高さは天然だけでも計算だけでも無理で、言葉の使い手としての金原さんのしたたかさを痛烈に印象づける。そして年齢が若返っていくほどに、まさに文体上の微妙な変容として、幼さよりもむしろナイーヴな脆さが現れ出ていって、それゆえに逆に「22歳」の壊れっぷりが痛ましく見えてくる、というのがポイントだ。非常に巧い、と思う。 渋谷センター街や六本木のクラブを徘徊し、何人かの男と日々を過ごしながら、常に過剰な違和感を持て余し、「世界」との宥和を強く望み続け、しかしその願いがけっして叶えられることがない、しかもどこかでそのことを予め諦めているかにも思える「私」の姿は、共感よりも苛立ちをより与えるものかもしれない。だが、これほどの強靭なる弱さを持ちこたえてゆくというのは、ほんとうに難儀なことなのだ。「私」は22年も生きてきた。闘争、と言うのは、それが負けたら死んでしまうしかないような闘いであるからなのだ。 (初出:インビテーション) 今月の第二位&第一位は金原ひとみの「ミンク」「ハイドラ」のワンツーフィニッシュです。まず短い「ミンク」の方は、心脳がヤバい状態になりつつあるというか完全にヤバくなっている女がミンクのコートを買うつもりでサテン地のトップスを買う話。自我が高速空転して分裂症的な妄想が暴走しまくるブレイク・コアな展開は相変わらずの絶好調で、ツッコミどころ満載の面白さです。ただラストの段落だけはちょっとまとめに入ってるような感じがしました。ここは「怯え」で落とさなくてもよかったのでは?。中編「ハイドラ」は長さのせいもあって、もっとちゃんとした物語があるのですが、壊れてなくても全然イケることを鮮やかに証明しています。クールな中年写真家と人気エモバンドの純粋君との間で揺れ動くACモデル嬢。映画化必至!。カネハラ凄えなあ、ではまた来月。 (「絶対安全文芸時評」第4回より。初出:スタジオボイス) ・芥川賞発表。諏訪哲史の「アサッテの人」。驚き。いや、候補作の中では明らかにこれが一番ハイレヴェルなのだが、だからといって獲るとは思っていなかった。識者の方々は今回は受賞作なしと仰ってる方が多かったが、 僕は誰にもあげないのならこの候補作の並びはないだろうと思っていて、色んなパワーバランスの兼ね合いで前田司郎に落ちて来てしまうのではないかと予想していたのだ。だが結果は至って真っ当な受賞。そろそろ「デビュー作でいきなり受賞パターン」か「初エントリでいきなり受賞パターン」のどちらかが出る頃なのでは?という読みもあったりしたのだが、その両方であったわけですね。 ・そんなわけで、「アサッテの人」評もコピペしておこう。 今月の第一位は、諏訪哲史の「アサッテの人」。群像新人賞受賞作です。あちこちで評判になっていますが、確かにこの人はタダ者ではないようです。「ポンパ」を筆頭とする「アサッテ」に憑かれたあげく(って何のことかサッパリ分かりませんが笑)消息を絶った叔父の思い出を、遺されたノート等を縫合して何とか物語ろうとするというメタフィクショナルなスタイルの作品で、選評でどなたかも書かれていたように室井光広氏の作品を思わせる所があるのですが、その実、真にやろうとしたのはいわゆる言語批判みたいな事というよりも、むしろある種の極めて実存的な問いかけなのではないかと。強度のナンセンスを痛ましいメランコリーに鮮やかに変換する方法的な手腕は、とても現在的だと思います。本筋とはあまり関係ありませんが「アローン・アゲイン」には思わず噴き出してしまいました(と書きつつ実は深く関係しているようにも思います)。ともかくも、このレヴェルを何作か積み上げていければ、あっという間に最重要作家の仲間入りを果たすことでしょう。 (「絶対安全文芸時評」第9回より。初出:スタジオボイス)
by ATSAS
| 2007-07-17 23:58
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