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2007年 01月 02日
スタジオボイスの新しい号は「80年代」の特集。満遍なくジャンルが掬われていて、なかなか力の入った仕上がり。こないだの90年代特集がかなり売れたそうなので、では次は‥ということなのかもしれないが、(形態や編集方針は何度か変わったとはいえ)ハチからの三つのディケイドをくぐり抜けてきた数少ない現役のカルチャー雑誌のひとつなのだから、スタボイにはこの特集をやる権利というか必然性がある。
そういえば僕にも幾つか80年代キーワードの執筆の依頼があったのだが、年末で何かと忙しかったのとスタボイでは絶安文もあったので(年末進行で〆切が十日近く前倒しだったのだが、そうすると各文芸誌を総て読んで書くという趣向上非常にキツイことになるわけです)辞退させていただいた。そうでなくても僕はキーワードとか項目執筆というのは割と苦手というか、書けばホイホイ書けるけどあんまり気が進まないのだ。しかしこういう総花的カタログ的な特集をやらせたらやはりスタボイは巧い。紙面構成から原稿発注、レイアウトまで、長年の間に蓄積されたノウハウがあるということだろう。 とともに、こういう全方位的というか絨毯爆撃的というか、とにかくありとあらゆるネタというネタを、そのひとつひとつはさほど掘り下げなくても、ともかくすべて入れてしまいたい(つまりカタログということなんですが)という感じそれ自体が、ある意味とても「80年代」的な気もする。このことはたとえば、クイックジャパンとの違いを考えるとよく分かる。QJの特集は基本的に「狭く深く」であって、カタログ的であることをあらかじめ拒絶、というか潔く諦めている。ピンポイントのネタを徹底的にというのがQJの変わらぬ編集姿勢であって、そのネタがテレビとかお笑いとかマス的なものに変わってきたことによって読者マーケットが飛躍的に拡大したということはあるが、雑誌作りの手法としてはアングラなテーマを追っていた初期から実は一貫している。そんなQJは僕にはやはり今なお「90年代」的な雑誌だと思える。これは言い換えると、おたくとオタクの差異、ということかもしれない。スタボイとQJは現在読むに足る特集を組める数少ない雑誌の中でも双璧と呼ぶべき二誌だと思うが‥‥では「ゼロ年代」的な雑誌というのはどのようなものだろう? そういえばいま思い出したのだが、スタボイの「90年代特集」に書いた僕のテキストは、特集の頭に置かれたこともあってまるで全体のプロローグみたく見えているのだが、僕は雑誌が届くまで特集の中身は殆ど何も知らなかった。あれは目下加筆作業中の「90年代論講義」から一部を抜粋してリライトしたもので、僕の「90年代」論のエスキスとでもいうようなものだ。他の記事には僕は全然関与していない。いや、もう少し正確に言うと、北沢夏音さんと三田格さんがやっていた特集全体の基調対談は、最初は僕に依頼があって、誰が対談相手がいいか考えて欲しいと言われたので、まず第一にサワラギノイさんの名前を挙げた。サワラギさんは典型的/代表的な「90年代」型の批評家だと思うし(昨年暮れに出た『美術に何が起こったか』は、当事者にしか書けない極めて重要な「90年代ドキュメント」だ)、個人的な興味としてもお話を伺いたいことが色々とあったからだ(ちなみにサワラギ氏とは『ポステク』の座談会で話したきり一度もお目にかかっていない)。だがご多忙な上に対談となると準備に時間が必要ということで断られ(編集部経由での伝聞)、他には中原昌也と曽我部恵一の名を挙げておいたのだが彼らは別でインタビューをやるということで見送り、そして最後にやはり最初から名前を挙げていた阿部和重ではどうか?ということで、編集部に彼の連絡先を伝えて打診してもらったのだが、大分経ってからいつまでたっても全く返事がもらえないというので直接阿部さんにメールしてみたら即返信があり、そんな依頼は来ていないという。で慌てて編集部に確認したら暫くして何と「スミマセン!間違えてスイス大使館にメールを送ってました」と!‥‥そんなことって有り得るんですか笑?‥‥だがまあそんなありえないことがありえたということで、阿部さんも何とか時間を作ってくれようとしてくれたのだが、深夜のメールのやりとりの果てに翌日夕方では?と編集に言われて、それはさすがに予定が入っててムリですというか普通ムリでしょというか何というか、ともかく残念ながら時間切れということに相成ったのだった(だけど北沢三田対談はそんなギリギリの後でやったわけだ。一体どうやったんだろう?)。でも明らかに僕と阿部和重よりも北沢さんと三田さんの組み合わせの方がスタボイの「90年代特集」にはずっとふさわしいので(皆さんもそう思うでしょ)、結果的にあれでよかったのだと思う。 ところで実はこのエントリは携帯で打っているのだけれど(そのせいで僕の馬鹿ノキアではサワラ木ノイのサワラという漢字が出ないのです)、ちゃんとアプされるのかなあ‥? 1月23日追記: ・その後、上のエントリについて三田格さんからメールを戴きました。によると、「スタジオボイス」の「90年代特集」での対談記事は最初から二つ行なわれることになっていて(で、結果としてひとつだけになった)、三田さんと北沢さんの対談は僕の方のあれこれ以前にとっくの昔に終わっていたのだそうです。そうかーそう考えれば全て納得できますね。しかしだったらいっそ、僕と三田さんとで対談してみたかった。
by ATSAS
| 2007-01-02 14:39
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